2026/02/20 12:54
ライトを当てた瞬間、透明な水晶の中にふわりと青白い光の筋が浮かび上がる。まるで雲の隙間から差し込む薄明光線のような、神秘的な「梯子」の模様。
それがエンジェルラダークォーツです!
でも、ちょっと待ってくださいよ?あの幻想的な模様は、いったいどうやって生まれるのでしょうか?「天使が描いた」では石好きのお客様にはご納得いただけないと思いますので、今日は鉱物学的な視点からその謎に迫ってみたいと思います。
そもそも「エンジェルラダークォーツ」って何?

エンジェルラダークォーツは、ごく普通の水晶(クォーツ)の一種です。成分も構造も、基本的には透明な水晶と変わりません。主成分は二酸化ケイ素(SiO₂)で、モース硬度7という丈夫な石です。
外見上の大きな特徴は、光を当てない状態では普通の水晶とほとんど区別がつかないという点。ところが光をかざした瞬間、内部に階段状・梯子状・あるいは羽根のような青白い筋の模様が浮かび上がります。
この幻想的な光の模様が、雲の隙間から差し込む「天使のはしご(エンジェルラダー)」と呼ばれる自然現象に似ていることから名付けられました。別名はクレパスキュラークォーツ。「クレパスキュラー」とは黄昏時の薄明光線のことで、こちらも同じ光景を連想させます。
正式な鉱物名はディスロケーションクォーツ(Dislocation Quartz)といいます。この名前に、あの模様の秘密が隠されています。
模様の正体①——「格子欠陥(ディスロケーション)」とは?
水晶は、ケイ素と酸素の原子が非常に規則正しく並んで形成されています。この整然とした原子の配列を「結晶格子」と呼びます。
ところが、水晶が長い年月をかけて地中でゆっくりと成長していく過程で、この原子の配列にズレや乱れが生じることがあります。これを鉱物学では格子欠陥(ディスロケーション)と呼びます。
エンジェルラダークォーツが「ディスロケーションクォーツ」と呼ばれるのは、まさにこの格子欠陥を内部に持つ水晶だからです。
格子欠陥は、結晶の成長速度が急に変わったとき、周囲の温度・圧力・化学環境が変動したとき、あるいは特定の元素や微粒子が不均一に取り込まれたときなどに起こります。まさに地球の内部で何万年・何億年という時間をかけて積み重なった「出来事の痕跡」なのです。
模様の正体② なぜ「青白く光る」のか?シラー効果の仕組み
格子欠陥があることはわかりました。でも、なぜあの独特の青白い輝きが生まれるのでしょうか?
ここで登場するのがシラー効果(Schiller effect)です。当ブログをご覧の方ならよくご存知ではないでしょうか笑
シラー効果とは、石の内部にある微細な層状構造やプレート状の部位が光と干渉し合うことで生まれる、独特の青白い光沢や発光感のことです。ムーンストーンの「青白いもやのような輝き」と同じ原理です。
エンジェルラダークォーツの場合、格子欠陥によって生まれた白色やプレート状の微細な構造物が、光を受けて散乱・干渉し、青白い筋として目に映ります。光が特定の角度から入ったときにのみこの現象が現れるため、見る角度や光源の向きによって模様の見え方が大きく変わるのです。
模様の正体③「層状成長」が生む梯子の形
エンジェルラダークォーツに見られる梯子状・階段状の模様は、単なる偶然の乱れではありません。あの規則性のある形には、ちゃんとした理由があります。
水晶は成長する際、環境の変化(温度・圧力・溶液の組成など)に応じて成長速度が変化します。このとき、元素や微細な内包物の取り込み量が層ごとに異なることで、内部に縞模様や層状の構造が形成されます。これを「成長縞(ゾーニング)」と呼びます。
エンジェルラダークォーツでは、この成長縞がディスロケーションと組み合わさることで、まるで梯子の横木が一本ずつ並んだような、あの独特の「はしご」型の模様が生み出されると考えられています。
つまりあの模様は、水晶が何万年もかけて成長した記録、地球の歴史の年輪のようなものとも言えるのです。
個体によって模様が違う理由
エンジェルラダークォーツは一つとして全く同じ模様を持つものが存在しません。梯子状のものもあれば、羽根のように広がるもの、霞がかったように全体が輝くものもあります。
これは、格子欠陥の発生パターンや場所、成長縞の間隔、内包物の種類や分布が、結晶ごとにまったく異なるためです。育った地層の微妙な環境の違いが、そのままユニークな模様として結晶に刻まれるわけです。
なお、「特定の内包物(鉱物の針状結晶など)が光を反射して模様を作るタイプ」はサゲニティッククォーツと区別されることもあります。厳密なディスロケーションクォーツは、目に見える内包物がないのに光を当てると輝くのが特徴です。
まとめ 地球が描いた偶然の芸術!
エンジェルラダークォーツの模様の秘密をまとめると、こうなります。
水晶の成長過程で起きた原子配列のズレ(格子欠陥)と、環境変化による層状構造(成長縞)が組み合わさり、シラー効果によって光が散乱・干渉する——その結果として、あの神秘的な青白い梯子の模様が生まれます。
完全にコントロールされた環境では生まれない偶然の産物だからこそ、エンジェルラダークォーツは希少であり、二つと同じものがありません。
科学的に見れば「格子欠陥」という、ある意味では「欠陥」から生まれる美しさ。それはむしろ、不完全さの中にこそ唯一無二の輝きがある——そんなことを教えてくれているようにも感じます。
次にエンジェルラダークォーツを手にしたときは、ぜひ光にかざして、何億年もの地球の時間を想像してみてくださいね☺
